大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和32年(わ)284号 判決

被告人 森康

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中八十日を右本刑に算入する。

理由

被告人は

第一、昭和三十二年八月一日から同年十一月二十日まで水戸市大手町所在株式会社産業経済新聞社水戸支局に営業部員として試用され、広告の募集及び広告代金の集金等の業務に従事していたものであるが、同年九月九日から同年十一月十五日までの間別表記載のとおり水戸市裡五軒町所在茨城トヨペツト株式会社外十七個所より前後二十四回に亘り広告代金として合計金十一万六千五十円を集金して業務上保管中その頃同市内等において擅に自己の飲食費等に費消横領し

第二、同年十二月二十四日午後八時二十分頃金品窃取の目的で同市南三の丸所在茨城商工会館裏木戸より同会館内茨城県経営者協会事務室内に侵入し同所机上より堀川克治所有の一級清酒一升壜詰一本(時価八百三十五円相当)を窃取した

ものである。

(中略)

弁護人は本件窃盗は中止未遂に該当するものであると主張するが、この点に関する前掲被告人の司法警察員に対する供述調書、田中みつ子の司法警察員に対する供述調書、司法警察員作成の捜査報告書、当裁判所の検証調書等を綜合すれば被告人は判示茨城商工会館内茨城県経営者協会事務室において同所机上にあつた判示堀川克治所有の清酒一升壜一本に窃盗の意思で手をかけた時同室北側の通路の方で人の足音がしたのでこれを手に持ち同室より同所南側の通路に出で東側の出入口の硝子戸をあけて逃げようとしたところ同出入口に錠がかかつていたのでやむなく同所の書棚と出入口との僅かばかりの空間に右一升壜をかくして置いた後再び右協会事務室内を通つて逃走した事実並びに右協会事務室は右商工会館内の各通路から独立した関係にあることが認められるので右一升壜を盗み出し、前記個所に置いたことは前記被害者の右被害物件に対する実力支配を一時的にせよ侵害し、これを自己の実力支配下に置いたものといわざるを得ないから本件窃盗は既遂をもつて論ずるのが相当であつて弁護人の所論は採用することができない。

よつて主文のとおり判決する

★ (別表略)

(裁判官 浅野豊秀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例